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VORTEX(旋風)

3日夜は、楽道庵へ「旋風(VORTEX)」を観に行く。

「旋風 VORTEX」
出演:長岡ゆり(舞踏家)、イシデタクヤ(舞踏家)、中谷達也(パーカッショニスト)、Ximena Garnica(ダンサー)、坂本直(サウンド・オーガナイザー)

長岡ゆり
舞台下手奥に、いきなりすっと身を横たえる。その入り方や良し。背中で地を這い、弓なりとなりながら、音もなくふわっと立つ。しかし、まだ身体は満ちてこない。それを待つように舞踏手は、丁寧に動きを織り込んでいく。やがて下手前の柱に絡みつき、舐めるように踊り、一瞬の間の後、後ろへ倒れこむ。その瞬間芸に息を飲んだ。そこから立ち上がって、小刻みに痙攣する<虫食い>の踊り。ここは最近の真骨頂として私が注目する踊りだ。虫はやがて全身を覆い、皮膚を食い破り、内臓までも侵す。顔は引き攣れながら全身が痙攣していく。やがて身体は虚ろとなって、虚空を泳ぐように余韻を踊る。上手奥の垂れ下がるチェーンの下で、見えない滴に全身を浸し、少しはにかむような表情で暗闇に消えた。亀裂は見え隠れするが、充分にダイブしていないという印象。潜っていく動きが不足。いつもながらのしなやかさで魅了するが、空間を鞭打つ強度が足らない。

イシデタクヤ
これほど足さばきの美しい人はいない。足裏、足先を眺めているだけで楽しい。数年ぶりに観たイシデは、深く重く潜行する動きを繰り返し見せ、冥府を彷徨う死霊のように闇に抗い続けていた。重心は低くなった印象。後ろ向きとなり水を浴びているのか何かを掬いあげようとしているのか激しい動作を繰り返して潜ろうとする。全身に水が溢れていき、それを放散するように右へ左へと激しく向きを変えて踊る。両腕を挙げて腹を晒し、生贄のように自らを差し出す壁際の姿は圧巻であった。

Ximena Garnica(ヒメナ・ガルニカ)
柱を背に裸身を晒して立つ。上手後方に白い衣裳が吊るされている。ゆっくりと後ずさりドアをノックする仕草。激しく旋回した後、右手を天に突き刺して、言葉を吐きながら揺らめくように踊る。ダンスと朗読が融合するこの手法は興味深く観た。指先で言霊を口から引き出すような動き。息を吐き、黒い聖母像のように崩折れていく。全身に弾条のような強度があり、力は怖ろしいまでに漲っていた。中谷達也のパーカッションとのコラボレーション。昨夜、もっとも衝撃を受けたパフォーマンス。


楽道庵は初めて行ったが、おもしろいスペース。ぎっしり満員であったため踊るスペースは限られていたが、力のあるダンサーが並び充実した一夜。「旋風(VORTEX)」というタイトルに制作者の意欲を感じる。 会場には、ミゼール花岡、鶴山欣也の顔も。観客の半分は外国人であったろうか。公演後、歓談の後、長岡ゆり(前妻、島本理生の母)とポレポレ東中野「朱霊たち」へ。大野慶人さんに挨拶。居酒屋で長岡と話す。妻(ナビィ)と阿佐ヶ谷で落ち合い、長岡を含め、三人で歩きながら語らう。妻と私はうねり亭で沖縄そば。2時半にタクシーで帰還。

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長岡ゆり 
1958年、東京生まれ。舞踏家、鍼灸師、Dance・ Medium主宰。幼少のころから父親の蔵書を読みあさる文学好きの子供であったが、舞台の非日常 空間に憧れて10才よりバレエ、12才より平岡志賀舞踊学園にてモダンバレエを学ぶ。舞踊はもとより演劇、マイム等の 舞台を見ているうち、10代後半に舞踏に出会い、その文学性と身体哲学に衝撃を受ける。以降20代後半より、集団に属する事なく小劇場を中心に独自のソロ活動を始め、東京を中心に欧米等での公演、ワークショップを続けている。 ポレポレ東中野で公開中の舞踏家・岩名雅記監督映画「朱霊たち」にネアン役で出演している。 最近、知覚を元にした繊細な動きを追求したいと思っている。

イシデタクヤ
東京出身。 25才で土方巽、石井満隆に師事。土方巽の遺作である東北歌舞伎計画(1985年)に参加。土方没後、勅使川原三郎のカンパニーによばれ、フランスで4作品に出演。1990年からはソロで日本、韓国、ヨーロッパの様々なスタイルのミュージシャンとの即興公演を続け今にいたる。2005年、イシデと長岡ゆりは、Shinichi Iova-Kogaと東京で「Innocent Weapons」を共作、共演する。

ヒメナ・ガルニカ
1981年、コロンビア、ボゴタ生まれ。ニューヨークで、アクトレス・ダンサー、振付師、シアター・ダイレクター、インスタレーション・アーティストとして活動。また、アート・インスタレーション、ダンス・シアター、インターメディア・コラボレーション、インプロウィゼーショナル・スタディを通してパフォーマンスの可能性を押し広げることを目的とするLEIMAYカンパニーのディレクターでもある。ガルニカにとってはソロとコラボレーションの双方が重要な意味を持つ。彼女の作品における美学や手法は日本の舞踏に強く影響を受けている。時に彼女の作品を特徴づけるのは、視覚、音、振り付け、演劇の要素の綿密な相互連結である。2005年、ガルニカはニューヨークの前衛新進ダイレクターとして、栄誉あるヴァン・リアー・フェロウシップの若手ヒスパニック系ダイレクターの賞を受ける。2003年、CAVE(ブルックリン、ニューヨークのグラスルーツ・アート中心のNPO)のダイレクターに就任。ニューヨーク舞踏フェスティバルのディレクター/キュレイターでもある。
by planet-knsd | 2007-02-05 08:27 | 長岡ゆり
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